現実歪曲フィールド
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「現実歪曲フィールド」という言葉を知っているだろうか?マックのファンなら当然、先日亡くなったアップルの創業者スティーブジョブスの言動を半ば揶揄する言葉である。
現状を無視し現在得られる技術を無視し、また経緯や事実すらも歪曲して「言いたいことを言う能力」である。不可能と思えることを可能だと言う能力こそ、アップルが画期的な製品を開発できた理由だとも言われている。アップルが苦境に会った時にマイクロソフトに出資を仰ぐが、その時の口説き言葉が「二社が手を結べばシェア100%になる」というものだった。結果的にビルゲイツは出資することになるが、その交渉過程はアップルの方がシェア95%を持っているような「現実歪曲」ぶりだったと言う。
大企業であるIBMがパーソナルコンピューターの分野に進出来た時もアップルは広告を出している。「ようこそIBM。本気で言っているんだ。」まるで既存のパーソナルコンピューター業界を代表して言っている口ぶりだが、当時はアップルよりも大きな会社はいくらも業界にあったのだ。
事実を曲げることもよく知られている。妥協的な製品についてはこっぴどくこき下ろし、良いアイデアはまるで自分が考えだしたかの様に現実を歪曲する。周りの人間にすれば迷惑この上ない人間なのだが、それで結果的に、革命的な新商品を連発してしまうのだ。
ジョブスの言動や功績を見てみると、どうやら「事実」や「正論」はあまり重要でないとさえ思えてくる。考えてみると、世の中こういうことはたくさんある。信用や影響力がある人が言えば、なんだって人は耳を傾ける。話の内容はほとんど関係ない。その人が言っている様子、表情だけを見ていて、それが白でも黒でもどっちだって重要ではない(またはどっちも重要)と納得してしまうのだ。人は事実や内容、理屈によって動くのではない。かなり感情的な生き物だと思う。
ジョッブスがこき下ろせば、それが当たってようと当たっていまいと、経緯すらも関係ない。要するに「もう一度やり直せ」、「もっと良いものが出来るはずだ」、「なぜそれがベストだと言えるのか説明せよ」、ということだ。そしてそれが「最高!」と評価されれば、技術的に稚拙であろうと何であろうと、彼を信じてその「現実」を受け入れることだ。
逆に言うとこれは大概の人間関係にも当てはまる。きちんと資料を出し十分時間を取って説明しても、心から納得して自ら動いてくれることは滅多にない。人は聞いている様で聞いていないのだ。すなわち「気持ち」が動いていない。その人の本当に「聞かせて納得させる」には、何度も何度も説明したり、おだてたり脅したり、熱意を持ってその人の魂を動かさないといけない。魂を動かすためには、事実や正論なんてあまり重要ないのだ。極論だけど。
全然余談だけど、今回の増税問題もそうだ。たしかに公約破りで民主党には反論の余地はない。でも今、増税出来なかったらどうなるのか。国際信用は失墜し、遅かれ早かれ国債は暴落し、国家的な危機が訪れる。今こそ野田総理の「現実歪曲フィールド」が必要とされているのだが、どうだろうか。