製品開発などのプロジェクトにおいては、予算が少なく締め切りが早い、つまり「スモールスタート」が成功し易いというのが一つの法則である。
プロジェクト予算が多ければ、色んな要素を詰め込める。仕様を上げれる、あれもこれも機能を盛り込める、十分に経費を使って立派なカタログ、専用ウェブサイト、その他広告戦略を展開できる、つまりあれもこれも出来てしまう。締め切りのない仕事はないけれど、締め切りが余りに先であったり、「なる早だけど締め切りのない」プロジェクトだと、色んな可能性を検討できるし、打ち合わせにしても、「顔合わせ」、「会議のための下打ち合わせ」、「担当グループ会議」、「グループ長会議」、「月例定例会議」とか、様々なレベルとメンバーの組み合わせで、一体誰が責任者で物事を決めているのか分からないほど、打ち合わせばかりが延々と続く。プロジェクトに関わる要素が多ければ多いほど、細部に渡って完璧になるまで時間が掛かる。カタログの表現とか誤字とか、様々な利害関係者の契約書の準備とかやりとりに時間がやたらに掛かる。「待ち」の時間や会議の時間設定にも時間が掛かるし、良い?タイミングで不測の事態も生じることが普通だから、ますます製品完成が遅れることになる。
結果として、何もかも詰め込んだ、やたら手間暇かけた(コストも高くついた)製品が長い時間を掛けて出来上がり、でも出来た頃には事情も市場環境も変わっていて、なんだかボンヤリとした戦略の下、そういう製品はまず売れない、というのが典型的な展開である(当初の責任者もとうの昔に異動してしまったりしている)。
それに対して予算も少なくて、早く製品化する必要がある場合はどうなるか。予算がないから出来ることは限られている。立派なカタログは出来ないから、パワポのプレゼンで用を済ませるしかない。仕様も最低限のものだけ、ややこしいことはない、ストレートフォワードな内容になっている。やること、やれることがあまりないから、最低限のミスは修正してすぐにデモ機でも完成させて、取りあえずは見込み顧客のところに持っていく。スモールスタートということだ。顧客のところに持っていけば、そのまま採用ということはない。ああだこうだ言われて、それを修正しまた持っていく。その内、デモ機を売ってくれとなって、「製品」として取りあえずは価格を決めて一台、二台と売れていく。その度に顧客から、ああしてくれこうしてくれと、使ってみて初めて分かる点を指摘され、またそれを修正してバージョンを重ねていく。そのうち完成度が上がり、売れる場合には本当に売れる製品として仕上がっていくというのが、典型的な成功ストーリーだ。
プロジェクトを成功させるのに大切なことは、なるべく早くシンプルな形で「タンジブル(=手で触れられる)」な具体的なものを作り、取りあえず早く顧客に使い勝手を試してもらう事だ。タンジブルなものなしに顧客にヒアリングしても批評のしようがない。具体的なものがあって、スウィッチの位置とか押し具合とか、大きさ・重さなどの感触、ウェブの使い易さ(見やすさ、動線のスムーズさ)、サービスの快適さ、見た目の良さなどが分かる。製品の本質的な良さがあれば、カタログがなくても機能が極めてシンプルでも、筋が良いものは良いと分かるものだと思う。
当社でも、なるべく早くデモ機を出せ、サンプルを作れ、取りあえず見込み顧客に見せてみて、そこから分かることを盛り込んで、バージョンを重ねていけと言っている。そのためには責任者がしっかり最低限のことを行って、自分が責任者だと自覚して意見を聞きにいかねばならない。自分がう良いと思っても他人は違う意見を持つだろうし、早く「違う意見」を言ってもらうこと自体が大事なのだ。最近当社も組織が大きくて?予算も使える様になった(なってしまった)からか、どうもスピード感が失われている気がする。タンジブルなものを出さねば、仕事をしたことにならない。それくらい思って、スモールスタートの手法を思い出して欲しいなと思います。